アルコールや薬物の依存症だった内観者
アルコール依存の会社員
- 内観者:アルコール依存の会社員
- 英之さん(仮名) – 40代、会社員
内観するまで
英之さん(仮名、40代、会社員)は10年前にアルコール依存症と診断されました。症状を改善するため、断酒会に参加するものの長続きはせず、再び飲酒を始めました。その後、依存症による不安定な心身の状態を落ち着かせるため、精神安定剤を常用し、今度は薬物依存症となりました。その上、妻以外の女性との交友関係も断ち切ることができません。このままでは破滅するのではという感じて、医者のすすめで研修所に来られました。
「経済的に恵まれているものの、両親からの愛情を受けずに育てられたという満たされない気持ちからくる空虚感によるものではないか」と、アルコール依存症になった原因を考えていました。
内観の様子
始めの2~3日は、両親に対する憎しみや恨みの感情に苦しめられていました。しかし、4日目に今まで誰にも言えなかった両親にまつわる秘密を面接者に打ち明けたのです。
「その時、不思議な安堵感に包まれ、両親を許すことのできなかった自分の狭量さと幼さ、また、両親がそれぞれひとりの人間としてどんなに悩み苦しんでいたかを思いやることのできなかった自分の冷酷さを思い知らされ、申し訳なさに涙があふれました」
英之さんは、妻をはじめ周りの人々が深い愛情で支えてくれたことを実感し、自分の思いやりのなさに情けなくなったと言います。
「その後、今までにかけた迷惑の数々を面接者に話すと心が晴々としました」
5~6日目には、温かいお風呂に入って、つくづく幸せを感じるようになります。普段は当たり前だと思っていた色々なことでも、じっと考えてみると、幸せなことがいっぱい含まれているものだと気付くようになります。感謝とかありがたいという気持ちを久しぶりに感じるようになります。
7日目、英之さんは次のように記しています。
「飲み足りない、遊び足りない、あれが足りない、これが足りないという足りないものを捜す人生から、十二分に満ち足りている部分にもっと目を向けて感謝の心を持ち続ける生活をしていきたい。人に愛を求めすぎていないか、自分は人に何を与えているかをいつも念頭に置いていきたい。自分で作る病気には二度となるまい」
内観後の英之さん
三年半後の手紙では「断酒会に出席し、アルコールや薬物を断つことができました。女性関係でも問題はなく、家族や会社での人間関係も良好です」と報告しています。
アルコール依存から立ち直るのは困難なことです。英之さんは長い苦しみの歴史の末に内観で改善の転機をつかんだ幸運な例です。内観療法は単純明快な方法ですが、心の健康を取り戻し、予想以上に多彩な実りをもたらすことがあります。うまくいけば非行や犯罪、あるいは不登校や引きこもり、摂食障害や心身症、うつ状態や夫婦関係の改善のきっかけにもなります。
薬物依存の事例~生命の輝き~
- 内観者:薬物依存の事例
- 美恵さん(仮吊) – 30代、主婦
内観するまで
美恵さん(仮吊、30代、主婦) は大学時代に仲間とマリファナやコカインなどに耽溺した経歴を持ちます。結婚を機に、一時は薬物を絶っていたのですが、専業主婦の生活はあまりにも寂しく、また、仕事に没頭する夫は帰宅が遅く、疲れ果て、夫婦に会話はありませんでした。
妊娠したものの流産した彼女は、寂しさを紛らわすため、再び薬物依存の世界に落ちていったのです。その後、精神病院に入院しましたものの、再発を繰り返し、夫からも離婚を突きつけられてしまいます。そして医師からすすめられ、内観することになったのです。
内観の様子
内観を続けていた5日目の朝、美恵さんは素晴らしい体験をします。研修日記から引用しましょう。 「母に対する自分を調べていましたが、大きくはじけるものがありました。とてもよく眠れ、気持ちよく目覚めることができました。カーテンを開けたら青空の広がるすがすがしいお天気で、食事が美味しくいただけて、生きていることの素晴らしさにただただ感動を覚えたのです。自分が生きているということの大切さ、素晴らしさを正しく実感したのです。実感という言葉は、こういう感じのことを言うのだと知りました。
美恵さんは内観によって生きている喜びを知り、初めて実感することができたのです。続けてこう記しています。
「食事を美味しいと感じられるのも、自然に対する感激も、すべては母のおかげです。私がおなかにいる時から大切に慈しんでくれたからこそ、この心身があり、それゆえにこの感動を体験できたのです。また、産むだけでなく、今日までこんな私を見放しもせず、いつも支えてくれた両親や周りの人たちの愛によって、私は今日を迎えることができたのです。生きていてよかった、生かせてもらえて幸せだと思いました。生きて存在しているだけで、こんなにも大きな喜びを味わえることができるのです。ですから、薬や遊びでしか快楽や喜びを味わえなかった今までの私に、別れを告げることができる自信を持ちました。
内観後の美恵さん
薬物依存の世界から抜け出すことは困難なことです。しかし、内観で身近な人たちの愛情を再体験し、自分の犯した罪を自覚しました。そして。自分の身体も含めて自然と触れ合った体験が基礎となって、7年後の今も美恵さんは元気です。
記録内観の事例
- ―母との葛藤を解消した中年女性―
- 奈良内観研修所 三木潤子
目的:1週間宿泊して研修する内観療法によって、症状や問題行動が改善された事例は多数報告されている。
しかし、1週間の時間が確保できないクライエントも多い。
そこで、カウンセリングに記録内観(「世話になったこと」、「して返したこと」「迷惑をかけたこと」のエピソードを毎日記録すること)を導入し、3か月間、わずか4回のカウンセリングで母親との葛藤が解消し、関係が改善された事例を紹介し、記録内観の有効性を検討したい。
- クライエント50代前半の女性・Aさん
- 主訴:母親との関係改善
面接の経過:初回の面接で、Aさんは「父が他界した8年前から我の強い母と同居が始まった。いくら注意しても母は台所や開いたタンスの引き出しに衣服や下着を吊るし、皮肉やボヤキを言う。それで母娘ゲンカが絶えず、腹立ちのあまり、せっかく母が作ってくれた料理を食べられず、母手作りのブラウスを着られない。そして、イライラして夫に当たり散らし、そのせいかどうかはわからないが、夫は勤務先の女性と浮気して同棲した。ついに2年前に彼と離婚したが、いまだに結婚指輪を指からはずせない」など、母への怒りと夫への未練を語った。
そこで、カウンセラー(演者)はAさんに記録内観(母との関係で「世話になったこと」、「して返したこと」「迷惑をかけたこと」のエピソードを毎日記録すること)を勧め、母に世話になったときは「ありがとう」と言葉に出すようにと助言した。彼女は3か月間、ほぼ毎日記録内観を続け、カウンセリングでその報告をした。
その結果、Aさんは母と適切な心理的距離をとり、母の言動にいちいち腹を立てなくなった。それにつれて母もAさんの注意を聞き入れて、台所やタンスの引き出しに衣服や下着を吊さなくなり、皮肉やボヤキを言うことも減った。また、Aさんが母に「ありがとう」を口にするようになると、母もAさんの好意に対して素直に「ありがとう」と言葉に出すようになった。そして、母の作った料理を食べるようになり、母手作りのブラウスを着られるようになり、母娘ゲンカは少なくなった。そして、結婚指輪を指からはずして川へ流し、夫との別れを受け入れた。
考察:カウンセリングに記録内観を導入することによって、短期間でAさんは母親との葛藤と夫への未練を解消することができた。母手作りの料理を食べるようになり、母手作りのブラウスを着るようになり、結婚指輪を川に流せたことは、それらを象徴するエピソードであろう。
このように記録内観は、1週間の集中内観と同様、人間関係の葛藤の解決に有効な技法の一つではなかろうか。さらにもっと多くの事例に適用して、カウンセリングへの導入の仕方やタイミングを検討したい。
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